風のスティグマ

 イカサマな強さを誇る主人公・八神和麻を演じるのは、当代きっての似非二枚目声優、小野大輔。いんちきな存在感たっぷりである。一方のヒロイン神凪綾乃は、やもすれば安易なツンデレキャラになりそうなところだが、藤村歩のヤンキー声が地に足の着いたワガママ娘っぷりを形作っている。彼らに挟まれる弱冠12歳の苦労人、和麻の弟・神凪煉は森永理科。かつての、今すぐにでもテロを起こしそうな悲愴な革命闘士声も、アイムで究極の弟ヴォイスの向こうを張るショタ声へと成長した。音楽活動との両立を目指し独立を果たした今後、どのような変化を見せるかは未知数だが、更なる飛躍を期待したい。メイン3人は、当人が役に似ているとよく言われることもあり、絶妙なバランスを保っている。
 とっかえひっかえ出てきては、和麻たち男キャラに絡んでいくゲストキャラクターも嬉しいところだ。原作2巻に当たる魂の値段編では、和麻を恨み 悪魔に魂を売った大神操役を、植田佳奈が従順さに隠した底意地の悪い声で好演。最後にはしっかり和麻に惚れてしまう辺り、ハマリ役である。原作3巻・月下の告白編では、煉と恋仲になる亜由美役・酒井香奈子が、まさかの歌いながらの登場。我々の耳をのっけから釘付けにした。同編で活躍したティアナ役・真堂圭も、ゴンゾ配役と侮ってはいけない小憎らしさ。原作の短編集に相当する綾乃ちゃんの災難編では、はねっかえりのアメリカ娘キャサリンマクドナルドを、たかはし智秋が熱演。アフレコ現場では腰を振りながら声を入れていたという楽屋話があるが、その光景が目に浮かぶようだ。執筆中には未登場のラピス役・牧野由依も楽しみなところである。風のスティグマを、ただのぬるい厨設定のファンタジーアニメと見くびってはいけない。いかにも通俗的なイマジネーションの積み重ねの上に成り立つ、お約束を踏まえた原色の娯楽性は、キャラクターたちの声によっても支えられているのだ。(喰)

ぼくらの

監督ブログでの発言などで、ネガティブイメージを流布させるのが通と勘違いした半可通により様々な批判に晒された『ぼくらの』。このような批判が不当である事を、我々は知っている。それは、監督がわざわざジブリから迎えられた森田宏幸であるとか作画は頑張り続けているとかそれ以前の問題で、集められた声優 陣を見ただけで尋常の気合の入り方ではないとわかるからだ。三瓶由布子比嘉久美子を小学生女子で起用する。ありとあらゆる蛮性の化身たるJSにともすれば少年声という面々の力感をあてる、これはきわめて誠実な観察の結果というべき起用だ。まだ少年役のない井口裕香も力感を買われての起用だろう。そして、JS、殊に高学年と言えば色気づく時期でもある。そのお色気要員として、高梁碧能登麻美子牧野由依というウィスパーボイスの持ち主を集めてくる目敏さ。特に、高梁碧は本当に素晴らしい。彼女の長大な一人語りの聞ける第7話は『ラーゼフォン』19話級のマスターピースとして記憶されていい。(郁)

sola

久弥直樹との七尾奈留のコラボレーションが話題を呼んだメディアミックス作品。2007年8月現在、原作ゲームは存在していないのだが、エロゲ・ギャルゲ 原作アニメっぽい雰囲気を醸し出しているのは原作者故か。ストーリーにはいろいろと謎や伏線が多いので、ネタバレを避けるためここでは多くを語ることはしないが、何はともあれ茉莉がかわいい。能登麻美子がこういった正統派ヒロインを演じるのは成恵以来だろうか。変化球が来ると思って油断してたら正面からぶん殴られた感じ。主人公の姉、蒼乃役には中原麻衣。所謂無口キャラなのだが、終盤では中原である理由を納得させる演技を見せてくれる。主人公の幼なじみの真名役には『うた∽かた』でお馴染みのヨーダこと本多陽子。その妹に清水愛。謎のょぅι゛ょ繭子役に金田朋子。声抑え目。何気に脇キャラが矢作紗友里小野涼子小清水亜美と無駄に豪華。もっと評価されるべき。(ロ)

大江戸ロケット

大人気アニメ『ハガレン』スタッフの再結集ということで、作品中でも(本人による)指摘がなされているとおり、釘宮の「究極の弟ヴォイス」を堪能できるところに、魅力を感じている視聴者も多いことだろう。しかし、誰かのコスをしていた真堂圭に『ハガレン』キャスト・スタッフと共演させ、さらに下卑たセリフを平気で口にさせるなど、その構成面を高く評価されるべきである。もちろん、シナリオについても申し分ない。月からの使者を、江戸時代の花火師がロケットを試行錯誤して造り、月に帰すというメインストーリーに、様々な人物の想いが錯綜している。山ちゃんの『キングダムハーツ』リスペクトな鍵屋カッコよさぶりはあまりに突出しているが、筆者としては番犬小町の正体が一体何なのか、そしてそれがいかにして現わされるかが気になるところだ。なぁーんつってちょうけむかはははは(透)

大きく振りかぶって

月刊アフタヌーン連載中、ひぐちアサ原作の野球マンガのアニメ化。ちなみに筆者は、あまり絵柄が好みではないという理由で原作を読んでいなかったのだが、アニメ化を機に読んでみたらまんまと嵌ってしまった。主人公の三橋役には、同時期に始まった『機神大ギガンティック・フォーミュラ』でも主役を演じる新人の代永翼が大抜擢。詳しくは新人声優レビューの項に譲る。ええ、とにかく三橋のキョドリっぷりの再現度は異常。かわいい。って阿部君が言ってた。みんな大好きマネジには福圓美里。マネジだから知ってるんだよ。そう言われたら何も言い返せないよね。次回のネタバレ全開の予告ナレーションも素敵。みんなミサトンのこと大好きだよねー? 天才田島の下野紘もいい味出してる。夏ってる青春を送った人もそうでない人も必見のアニメ。やべえオナニーするの忘れた。オナニーは会場でしないで家に帰ってからゆっくりしようね。(ロ)

魔法少女リリカルなのはStrikerS

 2004年の放映開始以来、全ての心ある声優ファンに糞キャスティングの代名詞として親しまれているのが『魔法少女リリカルなのは』シリーズである。誤解なきように申し上げておけば、『魔法少女リリカルなのはStrikerS』が糞なのは『魔法少女リリカルなのは』が糞だからであり、なのは厨どもが信じたがっているような『StrikerS』にいたってなのはが十九歳になったからダメになった、などという事実は存在しない。第一作に内在されていた糞な部分がシリーズを経るごとに拡大していき、誰の――さしものなのは厨の腐った――目にも明らかになった、と、そういう過程として理解されるべきだ。
 まず、九歳の天真爛漫な少女に田村ゆかりというのは、これは何かの悪い冗談だろうか。偽りの純真さを演じさせれば天下一、裏を返せば勝負できる声の幅が狭いから文脈に頼らないと十分に豊かな表現ができない田村ゆかりに、これは片肺飛行を強要するようなものだ。この片肺飛行の田村ゆかりのライバルが、声のシンプルさを声域の広さでカバーして良き平凡さ/平凡なる良さを醸してナンボの水樹奈々綾波芝居というのもこれは嫌がらせだろうか。綾波芝居にはそれ自体としてニュアンス豊かな声質が不可欠なのだ。綾波芝居で評価されたのは、林原めぐみにしろ南央美にしろ猪口有佳にしろ茅原実里にしろ、複雑微妙な声質で力押しできる声優ばかりである事は忘れてはならない。そして、その二人に絡む第三勢力が、植田佳奈水樹奈々とあまりにも声の良く似た植田佳奈。それでキャラが立ちうると、どうして思いこめるのか。まあ、『なのは』の登場人物はみんな同じ原理で動いているので誠実なキャストと言って言えない事はないが、そういう洒落っ気があればどれだけマシだっただろうか。清水香里を無駄遣いしたがために極めて苦しい斎藤千和中原麻衣の起用を余儀なくされたり、無定見としか言いようがない。(郁)

選考外

 以上、見てきたアニメ以外にももちろん優秀な声優アニメは存在する。ここでは惜しくも選から漏れたものたちを見ていこう。
 『月面兎兵器ミーナ』はアニプレックス×松岡超っぽさで一頭地抜けた存在感。恐らくこの時期の井上麻里奈を主人公に持ってこられる最後のアニメであった。その緊迫感と(まつお)課長キャスティングの繚乱っぷりは聴き応えがある。一期と二期で声優風景が変わったのは『ひまわりっ!!』。主役の松本華奈は初期のかわいさが少し減じたもののその分、ヒロインとして収まりが良くなった。全体的に一期のエッジが丸くなったのは一長一短か。介錯キャストの安定感といえば『京四郎と永遠の空』だが、しかしそこは矢作紗友里ヒロインによりアクセントが与えられている。矢作はもう少し力感が加われば完璧か。けどやっぱり下屋則子と判別しづらいよ。『VVV』と『デルトラクエスト』は高垣彩陽のデビュー作として記憶されるべきアニメであると同時に、前者はいい加減キャリアは積んできたがしかし初期の心意気は忘れない茅原実里、そして急激にこなれてきた辻あゆみとの中で中間に位置する彼女の美しさを、後者は主役二人が新人にもかかわらず屋良有作ほかの配置により落ち着いて聴ける。ニクール通して最終的に川澄綾子の幅の広さ、懐の深さ、相方の鏡としての透徹さを現出せしめたという点では『のだめカンタービレ』は後世まで記憶されて良い佳作。『ロケットガール』はこれまでにない頭身の長谷川静香、及びこれ以降増えた手塚まき演技の基点としての生天目仁美を登場させたという点で特筆に価する。
 春新番に目を向けてみると『桃華月憚』は魔窟と評していいほどの深さを持つ。これでそのままゆかながいたならばと思うとそら恐ろしい。ネタとベタのあわいで魅せてくれたのは『シャイニング・ティアーズ・クロス・ウィンド』。『らき☆すた』は、福原香織加藤英美里遠藤綾の魅力を世に知らしめたという点では評価できる。『怪物王女』は課長臭が耳につくが、しかしそれ以上にふがにこめる河原木志穂森永理科が職人芸を見せる。(宮)