加藤英美里*乱杭歯

端正、という言葉が、加藤英美里には恐らく良く似合う。感情の追い方の細かい演技もそうだし、かすれの殆どない芯のある声もいかにもアニメヒロイン、という風情がある。81プロデュースでは数少ない生え抜きの若手期待株、というプロフィールも、彼女がまっとうな道を堂々と歩んでいくべき声優である事を示している。
 それは、ビジュアル面でも同様だ。まず、150cm台中ほどの身長。女性声優の大型化が進む昨今、女性声優の本来の適正サイズに収まっている事は、それだけで随分と好ましい印象を抱かせる。大きな目、顔全体を使う屈託のない笑顔、笑うと両頬の、左右対称の位置に出来るえくぼ。有体に言って可愛い。間近で見ると、殆ど恋に落ちてしまう。
 しかし、可愛いだけではやっていけないのが生き馬の目を抜く声優界。蝋人形的な、スタティックな端正さを越えた何か、がなければ、第一級の才能とは認められない。逸脱によってこそ、端正な構築はオルゴニックなエネルギーを帯び始めるのだから。
 芝居では、細かく裏声を叩き込むスタイルでこの逸脱を実現している。限界の低さを露呈させてしまう方法でなくはないが、今のところ大きな破綻を感じさせる事はない。ビジュアルにおいては、まさに乱杭歯と称すべき歯並びの悪さによって、この逸脱が達成されている。ここで注意しなければならないのは、加藤英美里の乱杭歯が、決して出っ歯ではない、というところだ。歯茎は多少長いが、あくまで多少。ただ、大きすぎる歯が乱雑に重なり合った状態になっているだけで、前方や下方への強烈なベクトルに統御されているわけではない。あるいは訓練された規律ある動きに見えかねない笑顔の、絶妙のアクセントたるべき無秩序として、必要十分なインパクトの分を、彼女の前歯は守っている。やはり、どこまでいっても端正な、加藤英美里は正統派美少女声優なのである。(郁)