早見沙織

 新人・若手声優マニアにとって、辻谷耕史は、注目しないわけにはいかない音響監督の一人だ。ジャスティ・ウエキ・タイラーであり、シーブック・アノーであり、何よりバーナード・ワイズマンであったこの名優が、音響監督として極めて尖がった音像を追求し続けてきた事は、知る人ぞ知るところだ。尖ろうと思えば、人と同じような声優ばかり使っているわけには当然行かない。だから、彼の音響監督作品では、注目すべき新人声優が起用され既存の声優が新生面を開かれる。『ダイバージェンス・イブ』は水沢史絵のデビュー作で、『ヤミと帽子と本の旅人』は能登麻美子の一大転機となり、『シムーン』は相澤みちる新野美知と2006年の二大インパクトとして記憶される声優を世に送り出した。そして、今年、2007年。『桃花月憚』で辻谷が送りだしたのが、早見沙織 である。
 彼女の経歴は、相澤みちる松本彩乃矢作紗友里と似ている。高校在学中にアーツ系の事務所からデビュー。がっちりした体格と極端な声優顔 も、矢作・相澤の両先輩を思わせる。声質は、いずれの先輩とも似ていない。敢えて似たタイプを探せば、声・演技とも『桃華月憚』で共演している伊勢茉莉也。声はかすれが強く、がさがさと低い。演技は地声の上と下を地味に両方使って曖昧に感情の変化を追いかける、新人声優の標準仕様。艶のなさが、不思議と 野趣を帯びて聞こえる、アーツ・アイムと言うよりは東映アカデミー系の声と演技。高低アクセントと滑舌がかなりきちんと身についているあたり流石日ナレといったところか。この手の声優は、なんとなくそのキャラクターがその声や口調で喋っている気にさせるものであって、単体としての評価は意外に難しいが、大食漢で桃華ちゃん大好きな桃花ちゃんが可愛いのはどうしたって事実であり、だから早見沙織が可愛いのも『桃華月憚』に関する限り疑いようがない。なお、ED「この世界がいつかは」も歌っているが、歌で使える美しい高音が演技には出てこないあたりもいかにも。(郁)