戸松遥

私が戸松遥の声に初めて意識的に触れたのは『神曲奏界ポリフォニカ』なのであるが、実はアニメ自体は3話以降から、しかも適当に見ていたせいもあって(というより設定がいまいち好きになれそうになくて)さっぱり話を最終回まで見てもわからなかったのだが、何が見続けさせたのかと問われれば、それは間違いなくそのアニメ内での声優バランス、そしてコーティ演じる戸松遥の、荒削りながらも端々から顔をのぞかせるその瑞々しい才気であった。戸松遥は現在17歳という若さ相当の演技をするという点ではさまで注目される声優でもない。しかしそこで、必要とされているところに必要とされている演技をする声優として存在できる才能というのは誉められていい。それは『もえたん』にも言えることであり、素直に強気であれることというのは若さに許される特権ですらある。
 さて、彼女の演技であるが、筆者には水樹奈々の演技と被るようなところがあるように聴きうけられる。ちょっと気道が無理して狭められたようにひねり出される高音部やはねる語尾など、愛らしさが似ているのだろう。そして『ポリフォニカ』で競演していたのも大きい。そしてそのような聴き方というのは往々にしてこちらの耳とそちらの演技がこなれることによってさっぱりと忘れ去られてしまう類のものでもある。
 すなわちこのような聴き方を許すというのも新人声優の特権であり、新人声優を聴く者に対する赦しでもある。若さとは我々声ヲタに演技というものを考えさせる鏡であり、その意味において透徹な水面である彼女こそ新人声優の模範であり、地平でもある。その地平線の向こうに何があるのか見守れる幸せをかみ締める。(系)